不動産投資で多くの人に重要となるのは「ローン」です。
「不動産投資ローン」と「住宅ローン」は異なるルールと特性があるので、どちらを優先すべきか、どのように両立させるべきか迷うケースも少なくありません。
そこで本記事では、各ローンの違いや互いに与える影響、借り換えの方法など、資産形成に役立つ実践的なポイントを詳しく解説します。
不動産投資ローンと住宅ローンの違い
不動産投資ローンと住宅ローンの主な違いは、下表のとおりです。
住宅ローン | 不動産投資ローン | |
貸出総額 | 年収の5倍から7倍程度 | 年収の10倍が上限 |
金利 | 0.3%~1.33%程度 | 1.0%~4.5%前後 |
融資期間 | 25年から35年程度 | 15年から30年程度 |
審査基準 | 返済能力の確認が中心 | 投資物件の収益性や将来性も考慮 |
これらの違いは、不動産投資ローンが投資目的であるのに対し、住宅ローンが生活基盤を確保する目的であることから生じています。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
貸出総額
住宅ローンは借り手の年収や信用力によって異なりますが、一般的に年収の5倍から7倍程度が上限です。
一方、不動産投資ローンの返済原資は家賃収入が主となるので、貸出総額の上限は高めです。年収の10倍がひとつの目安と考えていいでしょう。
収益性や担保性の高い物件であれば、もう少し上限が高くなる可能性もあります。
金利
住宅ローンは0.3%~1.33%程度の低い金利が適用されるケースがほとんどです。
不動産投資ローンの金利は金融機関や物件によっても変わりますが、1.0%~4.5%前後と考えていいでしょう。
投資物件の収益性が悪化すると返済が滞るリスクがあるため、金利が高くなるのは仕方がない側面もあります。
融資期間
住宅ローンの融資期間は、一般的に25年から35年程度です。金融機関によっては40年の返済期間を設定できます。
借入時の年齢によっては、返済終了時の年齢が80歳未満になるようにが制限されるケースもあります。
不動産投資ローンの融資期間は、一般的に15年から30年程度です。投資用不動産は経年劣化による価値の低下が早いため、比較的短い返済期間が設定されます。長くても35年程度が上限になるケースが多いです。
審査基準
住宅ローンの審査では、主に借り手の年収や勤務先の安定性、他の借入れ状況などが重視されます。自己居住用なので返済能力の確認が中心です。
国土交通省の調査によれば、多くの金融機関が「完済時年齢」、「健康状態」、「年収」、「勤続年数」、「返済負担率」などを重視しています。

不動産投資ローンの審査は複雑で厳格です。借り手の返済能力に加えて、投資物件の収益性や将来性、管理能力なども重要な審査項目になります。
投資経験や不動産知識なども考慮される可能性はあるでしょう。
返済期間と法定耐用年数の関係

法定耐用年数とは、法令で定められた減価償却のための耐用年数です。建物の構造や用途によって耐用年数は異なります。
構造 | 事業用(賃貸用) | 自己居住用 |
鉄筋鉄骨コンクリート 鉄筋コンクリート | 47年 | 70年 |
木造 | 22年 | 33年 |
れんが、ブロック | 38年 | 57年 |
木造モルタル | 20年 | 30年 |
不動産投資において、耐用年数は投資の収益性を評価する大きな要素です。耐用年数が長い資産は収益を生む期間も長いと判断される傾向にあります。
ローンの返済期間と法定耐用年数は無関係思われますが、資産が長く使えるほど返済期間を長く設定できるという関連性があります。
住宅ローンは30年や35年の長期ローンが多いですが、これは住宅の法定耐用年数が長いためです。逆に言えば、短い耐用年数の資産に長期ローンを組むのはリスクが高くなります。
たとえば、耐用年数が5年の資産に10年ローンを組むと、資産が使えなくなってもローンだけが残る可能性があります。
なお、法定耐用年数はあくまで税務上の指標で、ローン返済期間は金融機関との契約です。これは別々に考える必要があります。
税務面においては法定耐用年数が税務処理の基準になります。期間中は資産の価値を分割して経費にできるため、大きな節税効果があります。
たとえば、100万円の資産の耐用年数が5年の場合、税法上は毎年その価値を20万円(100万円 ÷ 5年)ずつ減らすことができ、各年で経費に計上できます。ただし、5年が経過すれば税務上の資産価値はゼロとなるので経費の計上はできません。

一方、金融面における5年は「借りたお金を返済する期間」です。耐用年数5年の資産に10年ローンを組んだ場合、6年目からは税務上の価値がゼロになるため経費にはできませんが、返済はさらに5年間続きます。
税務上のメリット(減価償却)を無視するなら、短い耐用年数の資産に長期ローンを組んでもデメリットはありません。しかし、短い耐用年数の資産は物理的にも寿命が短いケースが多いので注意が必要です。
時間が経つにつれて資産の担保価値も下がります。ローンの完済前に資産価値が大きく減少してローンが払えなくなった場合、資産を売却しても残高をカバーできないリスクがあります。
不動産投資ローンと住宅ローンは両立できる?

条件によっては、不動産投資ローンと住宅ローンの両立は可能です。ローンを借りる前に、互いに与える影響や優先順位なども検討する必要があります。
詳しく見ていきましょう。
不動産投資ローンと住宅ローンが互いに与える影響
不動産投資ローンと住宅ローンを両方借りたい場合には、総借入額、返済負担率、信用面の相互影響を意識する必要があります。
総借入額
金融機関は借り手の返済能力を審査する際、現在のローン残高や借入額も考慮します。
たとえば、年収500万円の人が3,000万円の住宅ローンを組んでいる場合、すでに年収6倍のローンを抱えているので不動産投資ローンの借入可能額は制限されるでしょう。場合によっては審査に通りません。
金融機関は信用情報機関でローン残高や負債の情報を共有しています。虚偽の申告をしても必ずバレるので注意しましょう。
返済負担率
年収に対する返済額の割合「返済負担率」にも影響します。一般的な返済負担率は25%~35%前後です。
たとえば、年収600万円のAさんが月々15万円の住宅ローンを返済している場合、返済負担率は約30%となります。この状態で月々10万円の不動産投資ローンを追加すると、返済負担率は約50%に上昇します。
Aさんは不動産投資ローンの審査に通過できないと思ったほうがいいでしょう。
信用面
返済に遅れが生じると信用力の低下につながり、新たなローンを組むことが難しくなります。たとえば、住宅ローンの返済が遅れた経験がある人は、不動産投資ローンの審査に通りにくくなります。
自宅と投資物件どっちを先に買うべき?
審査が厳しい不動産投資物件を先に買ったほうが、2つのローンを両立できる可能性が高くなります。
投資物件から収益を得られれば、将来の自宅購入資金を貯めやすくなる可能性があります。
投資経験を積むことで不動産市場への理解が深まり、自宅購入時に最適な判断もできるようになるでしょう。
ただし、不動産投資は成功するとは限らず、失敗した場合に自己資金を失うリスクがあります。
住宅ローンが残っていても不動産投資はできる?
住宅ローンが残っていても不動産投資は可能です。
ただし、住宅ローンの返済を行っている状態でさらに投資用のローンを組むことになるため、総返済額が増加します。
借り手の年収に対する返済額の割合(返済負担率)が35%を超えると新たなローンの審査が厳しくなるので注意が必要です。
なお、住宅ローンを借りる際に自宅を担保に入れている場合は、投資用ローンの担保にするのは難しくなります。そのため、投資物件を担保にしなければいけません。借入可能額も物件価値の70〜80%程度に制限されます。
不動産投資ローンと住宅ローンは借り換えられる?

不動産投資ローンから住宅ローンへの借り換えは基本的に無理です。しかし、住宅ローンから不動産投資ローンへの借り換えることはできます。
詳しく見ていきましょう。
不動産投資ローンから住宅ローンへの借り換えは基本的に無理
不動産投資ローンから住宅ローンへの借り換えは基本的に困難です。不動産投資ローンと住宅ローンでは、リスクの評価や金利設定が全く異なります。
投資用物件に自分で住みたいと考えた場合も、借り換えに応じてくれる金融機関は皆無と思っていいでしょう。
住宅ローンから不動産投資ローンへの借り換えは可能
自宅用に購入した物件を賃貸に出す場合、住宅ローンから不動産投資ローンへの借り換えが必要になることがあります。
住宅ローン契約のまま勝手に賃貸に出すのは契約違反です。
必ず金融機関に相談したうえで、不動産投資ローンへの借り換えを検討しましょう。
なお、転勤や介護といった特別な事情があれば、住宅ローンのままでも賃貸に出すことを認める金融機関もあります。その一方で、事情に関係なく一括返済を要求してくる金融機関もあります。
ローンを借り換える際の注意点
住宅ローンから不動産投資ローンに借り換える際には、諸費用を考慮する必要があります。
費用は金融機関やローンの額によっても異なりますが、50万円~100万円以上の諸費用がかかることもあるので事前にチェックしておきましょう。タイミングによっては金利も上がります。
借り換える際には審査もやり直します。物件の担保価値や借り手の年齢、健康状態によっては審査に通過できないので注意しましょう。
リスクを抑えた不動産投資ローン返済のポイント

不動産投資を組む際には、返済計画をしっかり立てることが重要です。将来の金利変動や収入の変化に対応できるよう備えておけば、リスクを最小限に抑えられます。
詳しく見ていきましょう。
余裕を持ったキャッシュフロー計画を立てる
不動産投資におけるローン返済のリスクを抑えるためにも、余裕を持ったキャッシュフロー計画を立てましょう。
キャッシュフローとは、わかりやすく言うと「お金の流れ」のことです。余裕を持った計画を立てるためには、現実的な家賃収入を見積もらなければいけません。
不動産投資の主な収入源は家賃収入です。主な支出はローン返済や管理費、修繕費などになります。
たとえば、家賃10万円想定の物件を購入する場合、年間の家賃収入は120万円になります。しかし、これをそのまま計画に組み込むのは危険です。空室率やや家賃の値下がりリスクは必ず考慮しましょう。
家賃収入の70%から80%程度を実質的な収入として計画するのが無難です。
先ほどの例で言えば、年間84万円から96万円程度を収入として見込むと安全でしょう。予期せぬ事態に対応できる余裕も生まれます。
支出面では、突発的な修繕費用にも備えて家賃収入の10%程度を予備費として確保しておきましょう。
月々のローン返済額が6万円、経費が2万円の場合、合計8万円の固定支出がある場合、実質的な月々の家賃収入を8万円と見積もるなら予備費として8,000円を確保する必要があります。
固定金利と変動金利のリスクを理解する
固定金利はローン期間中金利が変わらないため、将来の返済額が予測しやすいという利点があります。長期的な資金計画も立てやすいでしょう。
たとえば、金利1.5%の固定金利で30年間で3,000万円を借り入れた場合、毎月の返済額は約10.3万円で一定です。
ただし、金利が下がってもメリットを享受できません。借入時の金利が1.5%で、その後に市場金利が1.0%に下がっても当初の2.0%のままです。
変動金利は、市場金利の変動に応じて金利が変わるため、金利が下がれば恩恵を受けられます。しかし、金利が上昇した場合は返済額が増加します。キャッシュフローに大きな影響を与える可能性もあるでしょう。
固定金利と変動金利を組み合わせるハイブリッド型のローンを選択するのもひとつの方法です。
たとえば、借入額の7割が固定金利、3割が変動金利のハイブリット型にすれば金利変動のリスクを分散できます。
繰り上げ返済を活用する
繰り上げ返済は、ローンのリスクを低減する効果的な方法です。
たとえば、3,000万円を金利2.0%期間30年で借り入れた場合、毎月の返済額は約11万円、総返済額は約3,960万円となります。
このケースで5年目に100万円の繰り上げ返済した場合、総返済額は約3,880万円に減少するので約80万円の利息が節約できます。また、返済期間も約1年短縮されます。
繰り上げ返済のメリットは利息の削減だけではありません。返済期間が短くなれば金利変動のリスクに晒される期間も短くなります。変動金利を選択している場合は特に効果が大きいでしょう。
ただし、投資用不動産は繰り上げ返済によって節税効果が減少する可能性があります。
繰り上げ返済を検討する際は、手元資金の状況や将来の資金需要、税金面の影響なども考慮しながら、バランスの取れた資金計画を立てるようにしましょう。
まとめ
不動産投資ローンと住宅ローン、それぞれの特徴と相互影響を理解すれば、効率的な不動産投資が実現するでしょう。